山下残「船乗りたち」

山下残はやはりダンスの求道者だった。(12月の終わりに残君のダンスを見に行った。)

見終わって、「面白かった!」というのと、今見たのは「何だったんだろう?」という感覚が残った。これは、いつものことだ。

残君はラディカルだ。昔、ラディカルの意味は、「前衛的」と「本質的」という意味がありますと習いました。つまり、本質を追究すると前衛になってしまうということ?

それと同時に、お客さんに楽しんで帰ってもらいたい、ということをとても意識している。それは、大阪、芸人文化で育ったというような風土の話、や、プロとはそういうもんや、という話、かもしれないんだけども、なんやろ、残君のそれは、自分と一緒にお客さんも楽しんでほしい、ということ、自分が面白いと思っていること、を自分と同じ地点にお客さんも来てもらって、そこで、一緒に楽しみたい、という感じがある。

残君は、公演が終わると、すぐ通路にでてきて、見終わったお客さんに、まだ、汗がのこり、息が切れていても、どうだった? ときいてまわる。その姿は、私、大好きだ。
お客さんは、どんな地点からみたのだろうか? それで、どうかんじたのだろうか? 楽しんだのだろうか? たぶん、そういうことを真剣な顔できいてまわっている。
でも、残君の作品は感覚や感情のいろいろな部分を刺激されることが多いので、その場では、感想はなかなか言葉にならない。それで、残君、顔がよかったよ、ダンスは顔だね、なんて、変な感想をいってしまったりする。

さてさて、今回の作品、テーマは即興だという。即興で踊る、ではなく、テーマが即興。
ダンスなんて、いってみれば(身体性みたいな話もありますが、)即興とか、リズムとかだ。つまり、即興とは何か、とはダンスとは何か、だ。ラディカルだ。というか、ライディカルな残君ことだから、ずっと即興はテーマだったはずだと思う。
もちろん、残君は「即興」という名の「即興の」ダンスを疑っているだろう。実際、即興と振り付けの差はよく決まっているか、あまり決まっていないか、の差しかなかったりする。そして、即興といっても、身体の動きのパターンをどれだけもっているか、それをどう組み合わせるか、というだけになっていたりする。たくさんネタをもっている人はうまく見えるが、しかしネタをコントロールしようと意識ばかりしているダンスは、見ていても面白くもない。
コントロールの先、が見たいわけなので。

逆に振り付けがしっかりいている方が、その場のネタの組み合わせなんて余計なことを考えなくて済むので、コントロールの先に行きやすかったりする。
このところの残君は、言葉というものを使って振り付けることで、(そして、それを観客に公表するという方法で、)いろいろな実験をおこなってきた。そこには、何が起こるんだろうと、その先を待つ感じは絶対あった。(それを残君も客も同じ場所で待つかんじ。)
そして、今回の何が起こるんだろう、は、平らなとこで完全に振り付けられたダンス作品を、丸太を組んだいかだ(不安定で、予想もつかない揺れをする)の上で、立っているのも大変なところで、上演するというもの。もう、これだけで、一本!というかんじなのだが。
実際、いかだの上でおろおろするダンサーは見ているだけで面白くて。
決まった振りを付けを踊ろう、としても、予想外の揺れで、とっさに身を守る動きがでてしまう。また、いかだの動きを予想し計算して、振り付けに近くなるように体重の移動させ、動く。
そこは、うまく書けないが、本当に即興、身体性、いろいろな実験の場だったんだろう。

顔が面白かったのは、顔の踊りは最後のとりで、というか、身体の他の部分の振り付けは、あまりの揺れのために破壊されていても、顔だけはなんとか、振り付けに近く踊れていたからだろう。そのアンバランスさ。
また、揺れのため、その予想外にでてくる自分の動きなどに翻弄されながらも、その場その場で予想外をとりこんで、出演者4人でダンスをつくっていこうとする意思も伝わってきて、それが、作品性につながり、ひとつの面白い即興のダンス作品になっていたと思う。(4人のコラボレーション作品としても面白かった。)

いろいろな、ネタっぽいものも出てきて、それはストーリーのようなものをつくっていこうとするのだが、そして、それはとても面白そうなのだが、そういうのがやりたいのではないとひとつひとつつぶしていくかのように、バターン、バターン、バターン、させていく4人の男たちの船出。乾杯したいと思う。

PS
最後の方、見ていて、集中力が続かなかったのは確かだ。ぼーっとした頭で見に行っても、引き込まれ、1秒も目が離せないような作品の続いていた残君には珍しい。それは、安易に作品にしなかった、ためだとも思える。このへんの難しいところは、わたしの何百倍も残君が考えていると思うので、とにかく、次を私は絶対見に行く。そんな気にさせる作品だった。

ログ大阪の残君のロングインタビュー
http://www.log-osaka.jp/article/index.html?aid=246

私が過去に残君について書いたこと。(旧HPより。)
http://naha.cool.ne.jp/kyohe/produ1.htm
http://naha.cool.ne.jp/kyohe/nikki.htm#45

山下残「船乗りたち」” に対して2件のコメントがあります。

  1. さっちゃん より:

    TITLE: 残くんのダンス、みたーい!!!

    残くんの踊り、ずーっと前に
    誰かの引越しパーティーか何かで一度だけ見たことあるんだけど、
    その時はなんか、「この人ステキ!この人ステキ!」とやたら思った憶えがあるよ。
    あと、光が差してきたような感じがして驚いたんだった。踊りってこんなこともできるのかー、と。

    残くんの踊り、また見たいなー!

  2. おかけいすけ より:

    TITLE: 残くん。

    「船乗りたち」のちらしを見た時「すごい!」と思いました。
    残くんは、踊りの本質的なトコを、ビビらずに、あちらからも、こちらからも探ってる!

    でも、今回は観にいきませんでした。
    残くんの踊り観に行くと、いっぱい考えてしまうからな~、
    今、ちょっとその余裕が無いのな~

    でも、次回は行こ。

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