徴用工のこと、少女像のこと

 年末に釜山に行ったとき、「国立日帝強制動員歴史館」を訪ねた。地下鉄の駅からバスに乗って降り、坂道を登ると、大きな建物が現れる。入って第一印象が、入場者が少ないな、だった。
 徴用工裁判の判決が、ニュースになっていたときだから、来場者が多いのかと思っていた。
 日本で思ってたより、韓国での関心は低いと感じた。日本ではもっぱら二国間の政治問題として語られているが、韓国では徴用工当事者の人権問題として考えられているのではないか、と思った。

 戦時中、徴用工として人権侵害をうけた人が、裁判でその企業に謝罪を求め、それが判決で認められた。まさに人権問題。ただ、共感や広がりが限定的で、まだ全国民の考えるべき問題として広がっていないかんじもした。

 この件、日本側の対応はひどい。
 三菱重工など日本企業は被害者にきちんと謝罪し、慰謝料を払うのは当然だ。
 日本の報道機関はきちんと取材し、どのような人権侵害が行われたかを伝えるべきだ。それぞれのひどい体験が伝わることで、国家を超えた共感が生まれるだろう。人権侵害や差別が反省され是正されていくこと一つひとつが、人権が大切にされる、誰にとっても生きやすい社会の実現に貢献するだろう。
 また、日本政府が直接訴えられているわけではないが、当時の大日本帝国の政策が関わっていることなので、過ちを謝罪すべきた。それは現在の日本政府にとって、かつての大日本帝国を否定し、平和な国として歩んでいることを世界にアピールできる絶好の機会であり、歓迎すべきことだ。

 今回、安倍政権は輸出規制を発表することで、一気に政治問題化してしまった。韓国の基幹産業に半導体にダメージを与えようとする、それは韓国全国民に関わる経済問題だし、国家間の国際政治の問題である。
 韓国国民が不当性に怒り、意志を表明できる直接的な抗議運動が生まれるのは当然だと思う。抗議運動が問題が広く告知し、自分の問題として考える契機になったこと自体には、私はいい面があると思うが、やはり、政治問題化は不幸なことでもある。結局、それは、被害者不在のまま進められてしまう。

 ただ、韓国では、人権問題としてとらえ、被害者の救済と連帯というところに戻ってくるのではと思っている。
 慰安婦問題の大きな流れがそれを感じさせる。
 私が初めて韓国に行ったのは2007年、その時、ナヌムの家に伺う機会も得た。その滞在で、思いの外、韓国国民の慰安婦問題への関心は低いと感じた。未だ、慰安婦の方々の孤立は続いているのかもしれないと感じた。

 慰安婦問題について、日本政府がかつての日本帝国主義を反省し、謝罪することは必須である。ただ、それだけではなく、人身売買には韓国の業者が関わっていただろうし、なにより、帰国した元慰安婦が、40年以上もの間声を上げられず、沈黙を強いられたことは韓国社会の問題でもある。
 慰安婦問題は、戦争、植民地、性暴力、民族差別、女性差別、売春婦差別が絡み合う。慰安婦の方は、それらすべてについての被害者であり、それらの問題はすべて現在にもつづく人権問題である。
 2国間の政治問題に矮小化させるべきではない。

 一昨年、日本政府が釜山の日本領事館そばの少女像の撤去を求め、政治問題化させたとき、私はおそるおそると訪ねた。日本人ということでひどく攻撃されたりしないだろうか。
 しかし、それは、全くの杞憂だった。

 行ってみると、パフォーマンス中で、多くの人が集まっていた。平和の少女像を見るのは、初めてだったが、作品は隣にいすが設置してあり、そこに座ることができる。多くの人がその席に座り、記念に写真を撮っていく。
 私も隣に座ることを勧められた。最初はかなり躊躇した。男性であり、しかも日本人である私が、となりに座っていいのだろうか、と。そして、近づき、座ったのだけど、それは、貴重な体験だった。自分のアイデンティティーについての問い、座ったときの少女との距離(近さ)、共にいるということの意味、そんなことを感じ考える体験だった。
 少女像を囲む場は、日本政府を非難するためというよりも、釜山市民のための場であり、「歴史や思いを忘れない場、慰安婦たちを孤立させない、そして、共にある場として機能している」と感じた。
 このような、平和の少女像が韓国や世界に広がっている、というのは素敵なことだと思った。慰安婦たちが孤立させられることはなく、人権問題として広く市民に共有されているんだと、韓国国内の十数年の変化を感じた。私がいうのはおこがましいが、本当に素晴らしいことだと思う。
 
*「平和の少女像」は、鑑賞者に体験をもたらし、場を生み出す、非常に優れた芸術作品だと思う。
*現在、あいちトリエンナーレ2019、「表現の不自由展・その後」で展示されている。是非、行ってみたいと思っている。
https://aichitriennale.jp/artist/after-freedom-of-expression.html

 一方、日本の方は、ますますどんどんと酷くなっている。(書きかけ)