『このようなやり方で300年の人生を生きていく[新版] あたいの沖縄旅日記』
この本の初版は2005年、キョートット出版の書籍第一号として刊行されました。著者の小川てつオさんは2003年から、東京にある公園のテント村で野宿者として暮らし、排除に抗する活動やアートを実践しながら生きています。そんな小川さんの原点ともなった、19歳の時の沖縄旅行。似顔絵屋の看板とテントを背負って旅し、現地から兄にあてて送った手紙(日記)が本書のもとになっています。スケッチブックの紙にびっしりと綴られた細かい文字は、それだけで熱量が伝わってきます。そのため初版の組版・装丁は、手書きの雰囲気やリズムを残そうと「読みにくくすること」に腐心。アナーキーな空気が渦巻く伝説の一冊となりました。
初版はそんな感じで、勢いはあるけれど未熟な装丁となり、届くべきところにじゅうぶん届かなかったとの反省が残りました。そこで新版は、ぜひとも新しい姿で世に送り出したいと考え、納谷衣美さんに組版・装丁を依頼しました。納谷さんは読者を作品世界へとさり気なく誘うデザインで、数々の良書を担当されてきた装丁家です。
いざ初版に向き合ってみると、著者には再構成したい章があり、また、前回見過ごしていた編集上の粗があることもわかりました。結局、著者・納谷さん・編集メンバーとで予想を超える長丁場、2年越しの作業となり、大幅増補改訂となったのです。
本作品は著者19歳のときの沖縄旅日記と、10年後、再び沖縄を訪れた記録という2部構成になっています。19歳の旅での一人称はなぜか「あたい」。ラディカルな問いを生きる若者のエネルギーが、文章やスケッチから弾むように伝わってきます。一方、10年後の旅日記での一人称は「ぼく」。文体も絵のタッチも大きく変化します。新版では、この10年後の旅の章を、当時の手紙やブログの文章、スケッチなどから大幅に増補しました。初版よりも10年後の旅の比重がぐっと増し、人生の深まりがより重層的に映し出される作品へと生まれ変わりました。さらに読者が思索をすすめるヒントとなるよう、差別や沖縄戦について語る編注も加えました。
今回は著者の小川さんも編集に深く関わっており、「旅の続き」を生きる小川さんの、現在の視線も作品に重なっています。また納谷さんの組版・装丁は、この若者の旅に寄り添うように、時間の流れと色合いの変化をリズミカルに表現しています。
さて、本書にはお得なおまけが付いています。著者とかとうちあきさん(「野宿野郎」編集長(仮))との対談が付録として挟み込まれているんです。本書もそうですが、この対談も、読んだら多分、旅に出たくなります!
では5月22日の刊行まで、今しばらくお待ちください。