小川てつオ『ホームレス文化』

新刊 9月3日発行

ホームレス文化

公園に暮らし20年、隣人たちと織りなす生活を綴る

都会の公園の一角、ホームレスの集住地。20年前、そのコミュニティの豊かさに衝撃を受け、自らもテントを建てて暮らし始めた小川てつオ。

以来、排除の圧力や社会の変化をくぐり抜け、隣人たちと織りなす生活をブログ「ホームレス文化」で発信し続けてきました。本書はブログより記事を厳選・再構成し、テント村20年の生活史として世に送るものです。

差別や暴力の標的、一方で支援の対象とだけ見なされるホームレスという存在。しかし、ここには生活があり、「見えない豊かさ」がある!

「存在そのもの」で生きる魅力的な隣人たちとの日常や支え合う知恵が、いきいきとした筆致で描き出されます。公共地に暮らすことで見えてくる、この社会の本質もあぶり出されていく。本書はテント村の物語であると同時に、ホームレスの「地点」から紡ぐ、生きた思想の書でもあるのです。

——ホームレスの存在こそが、もう一つの世界の始まるべき地点なのだ。
未来はこちらにこそ、ある。

小川 てつオ著『ホームレス文化』
四六判並製 384頁 本体2400円+税 装丁 西田優子
2025年9月3日発行 ISBN978-4-9902637-8-2 C0036

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目次

プロローグ
朝起きたら、野イチゴを食べる/テント村にある永遠の相

第1章 2005年11月~2006年10月
よりゴミっぽく!/12月の現状/テント村紳士録/3月の現状/6月の現状/生き生きと揺れ動くテント村/はい、露骨な排除計画です/指定地/移転当日/夜中の神社と99円ショップ

第2章 2006年11月~2008年
新しい村/住民苦情/古老の入院/猫自慢/不思議な石/小屋がなくなった

テーマ1 めぐる食べ物
ホタテマン/パン屋さん発見/冬の救世軍/お供え

第3章 2009年~2010年
あけまして/半分、外/限りなく妖精に近いブルー(テント)/M少年遭遇記/魂のスープ/猫が木から降りない/誕生日のつれづれ

テーマ2 場所を開く
他人に働きかけてはいけない公園/耕す人/テント村の風景/猫小屋

第4章 2011年
車イスの下の枯れ葉/ある日の会話/地震とテント村/イッツ ア 将棋ワールド/カラス/煩悩の丘

インタビュー「高台の闘いと生活」

テーマ3 襲撃×対話
襲撃あり/ひさしぶりに走った/犬糞爆弾/続・犬糞爆弾

第5章 2012年~2014年
ヤマトは今日も吠える/噂/つくりもの/郵便の思想/階段/雪、落木、雪、落木/カトウさんの幽霊/よっちゃんの死/テントの建て替え/公園のフルーティアン/畏友

テーマ4 少し根を生やす
北さんの小屋づくり/それぞれの木/ダンボールハウスのすきま風/バス停にて

第6章 2015年~2017年6月
炊き出しについて/野宿者茶話会/生活のプレゼント/3人の男の話/元気?/イマジン ノー ポゼッションズ/歌/彼のような人たち/発行部数40/もらい隊出陣/反五輪英会話教室

テーマ5 「私」が働く
本日の仕事/差別とカミングアウト/仕事と当事者

第7章 2017年9月~2021年6月
残念なトマト/豪雨の中/もらい隊の季節/鴨/猫の引っ越し/食料の分配/早起きライター/山ちゃんの死/大容量の焼酎ボトル

テーマ6 今ここにある暴力
ネコさんの死/街場の生と死/殴られた件

ドキュメント「ここにいたい」

第8章 2021年12月~2023年
深夜/深夜・再考/ココナッツサブレ/じょうしき/ビンのフタ/ツドエ/猫股

あとがき

著者について

小川 てつオ(おがわ てつお)
1970年、東京生まれ。高校卒業後、絵画、詩、音楽、パフォーマンスを制作。1996年より「居候ライフ」。いろいろな人の家に居候し、巡回しながらゆるやかな共同性の実践を重ねた。2003年から都内公園でテント生活を始め、現在に至る。テント前で物々交換カフェ「エノアール」をいちむらみさこさんと運営。2005年、ブログ「ホームレス文化」開設。
246表現者会議、みんなの宮下公園をナイキ化計画から守る会、反五輪の会、ねる会議などに参加し、野宿者排除に抵抗する活動を行っている。
著書に『このようなやり方で300年の人生を生きていく[新版] あたいの沖縄旅日記』(キョートット出版)、共著に『マイノリティだと思っていたらマジョリティだった件』(ヘウレーカ)、『反東京オリンピック宣言』(航思社)など。

本文から

テント村にある永遠の相より

 将棋がはじまり、他愛ない昔話(グループサウンズがどうしたとか、高校の頃はこうだったとか)や炊き出し情報、誰かさんの悪口などに花が咲き、ウクレレを持っている人がリクエストで昔の曲を演奏する。傾きはじめた太陽が地面の土を木漏れ日でまだらにしている。(中略)
 口に出しては言わないが、こういう時間の中で、ぼくは「永遠の相」を少し感じる。永久に続いている時間の中に今いる、という感覚。ずっと繰り返されてきた時間、人の営みの変わらない古層がまざまざと立ち現れてくるような不思議な感覚だ。その光景が自分の奥のほうのどこかで共鳴しているような、懐かしくもあり、時間が止まったように退屈でもある感覚なのだ。
(中略)
 しかし、今日みたいな日、何もないような静かな日、ときに空に浮かぶ夕焼け雲がやけに身に迫るように、ふとテント村の、この場所の「永遠の相」にしびれてしまうことがある。

生き生きと揺れ動くテント村より

 テント村の住人がなぜ強烈な個性のままでいられたのかと言えば、一般社会とちがって、ここでは自分の生活を自分でつくり、他人から管理されることが少なかったからではないだろうか。ここでは人が不完全のままでいられた。

インタビュー「高台の闘いと生活」より

てつオ 高台に住んでいて、いい点だと思ったのは?
トラ  簡単だよ。風が吹いている。ゆっくり風が吹いている。それ以外に言うことはない。
てつオ だいたい聞きたいことは聞いたんですが。
トラ  一番聞いてないのは、ここに来て何をやっていたのか、っていうことだよ。
てつオ じゃ、それをお願いします。
トラ  何をやっていたかというと、正直、何にもやってないよ。
てつオ 今回の闘いを振り返って、何かありますか。
トラ  引かない。引くわけないじゃん。人間は、平ら。

車イスの下の枯れ葉より

 ケンボウさんが「今日、道の端で缶をつぶしてたらね、タクシーから運転手が降りてきてね、嫌だなーと思ったんだよ。十中八九、嫌なこと言われるからね。個人タクシーの者ですが、吸いますか?ってタバコ差し出すんだよ。吸わないからって断ったけど、そうしたら、働いている姿を見るのが好きなんだと言うんだよ。はじめて働いているって認められたと思ってね。うれしくなった」と少し恥ずかしそうに言った。

続・犬糞爆弾より

 20分くらい話しただろうか。ぼくは疲れてきた。
「もう、そろそろ、いいじゃないか。あんたの言うことも聞いたよ。こっちとしては、犬の糞をもう投げないでくれということだ」
「どうやったら出ていくのか、支援をするよ」と男。そして、「話したかった」と言って、男は立ち去った。
 彼が支援したいと言い出した時は空耳かと疑ったほどだったが、聞いていくうちに不思議ではなくなった。犬の糞も支援も彼にとっては公園からホームレスを追い出すための手段でしかない。公園から出すことを支援と呼ぶことの多い行政と彼とは、発想においてたいした違いがない。

あとがきより

 野宿者としてぼくの関わった試みの多くは空回りだったけど、その度合いは、ここの生活に可能性を見出そうとしている自分と周りの人たちとの意識の差に比例しているかもしれない。文芸部の合評会のときに、カワズさんから「終わりの場所だと思ってきた人たちと、ここで何かを始めようとしている小川さんたちとの違いがある。自分はここでは何も始まらないと感じている。野宿者になった時から自分の中の世界は止まっている」と言われたことがあった。たしかに、そのように感じている人が多い場所なのだ。その気持ちは実存の深みから湧いてくる抗しがたいものだろう。しかし、ぼくは、ここですら何も起こらないとしたらどこに起こるのか?と思って、ここにいる。空回りだとしても、それなりの風は吹くだろう。そして、このテント村が続いていることだけでも「何か」であり、その場に根を張る人たちのほんの小さな変化こそが真に重要なことだと思う。

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