新刊刊行&倉庫落成記念 『300年』原画展@キョートット【レポート1】
小川てつオ著『このようなやり方で300年の人生を生きていく[新版] あたいの沖縄旅日記』 には、旅行中に描いた絵がたっぷり収録されています。
著者19歳の旅でのスケッチは、クレパスによる生命力溢れる色彩と筆致が見る者を巻き込むよう。それが10年後の再訪では、主な画材は色鉛筆に変わり、空気の微細な色合いを映し出す繊細なタッチへと画風は劇的に変化しています。
新版は初版(2005年)未収録の絵が多数採録され、とくに10年後の絵が大幅に足されたことで、「このようなやり方」で生きると決めた若者の10年というスケールが、スケッチからも鮮烈に浮かび上がる構造になりました。
そんな新生『300年』の誕生を祝い、5月20から22日の3日間、キョートット出版で刊行記念原画展を開きました。(ご案内)
倉庫落成
5月初旬に原画展開催を決め、会場はキョートット出版の倉庫スペースに決定。キョートットは2020年秋から、西陣の古い町家を仕事場兼住まいにしています。ここに引っ越そうと思ったのは、奥に土間があり、本の倉庫にできると思ったからでした。土間は織機を設置した跡が残り、川端康成の『古都』に出てくるような、西陣の典型的な機織り場。油を含んだ黒い土の床は凸凹でした。
当初から在庫本や資料の置き場にしていましたが、幸い小規模事業者持続化補助金の申請が通ったので、今年3月から改装工事を始めました。工事は長年の友人でドラマー、そして便利屋でもある太田和成さんに依頼。彼は柔軟な発想と緻密な計算、丁寧な作業が素晴らしく、ときに口笛を吹きながら仕事する、いかした大工さんでもあるのです。
木の床を張り、棚を造作し‥‥暗い雰囲気だった土間が、少しずつ明るい空間に変わっていきました。
5月17日。新刊納品当日の午前、みごと竣工と相成り、直後、本の運び込みも太田さんが手伝ってくれ、めでたく『300年』が棚に収まりました。
新刊完成を喜びあう
新刊が届く数日前から、フリー編集者の藤本なほ子さんがキョートットに滞在していました。藤本さんは、この4月から刊行が始まったばかりのシリーズ「あいだで考える」(創元社)の企画・編集も手がけ、活躍されています(シリーズ1・2冊目は6月はじめ早くも重版に!)。外出先から戻った藤本さんは、出来たてホヤホヤの本を手に取り、その姿、感触を味わうように頁をめくって歓声をあげました。
「いやあ、いい!! すごくいい!!! ‥‥これは納谷さんに感謝だね!!」
思い返せば一昨年夏、藤本さんに編集上の相談をし、親身なアドバイスをいただきました。完成までには、いくつかの壁があり、2年ごしの作業の間、ずっと心配もしてもらっていました。また、装丁・組版をお願いしたデザイナーの納谷衣美さんには、初期の段階から校了直前まで、度重なるミーティングに参加していただき、『300年』の世界を一緒に作ってもらいました。そのことも、藤本さんはよく知っています。
本の完成は感慨はひとしおですが、でも、それ以上に、こんなにも我がことのように一緒に喜んでくれる友人がいる。そのことの、ありがたさよ! じいんと胸が熱くなった夜でした。
原画展前日
原画展の展示プランはすべて、著者の小川さんに一任することに。開催前日の朝、東京から<ぷらっとこだま>で駆けつける予定の小川さんから「新幹線に乗り遅れた!」と連絡が入りました。
そういえば『300年』も、19歳の著者が泣きそうになりながら有明埠頭に駆けつけ、時間ギリギリに沖縄行きの船に乗り込むというドラマチックな場面で始まります。さらにいえば2年前、この本の増補改訂作業で京都に来ていただいたときも、予定の新幹線に駆け込み乗車したと聞きました(そのときは間に合った)。30年前から、そういうところ、ずっと変わっていないのかも。小川さんの「変わらなさ」に、嬉しい気持ちになるのはなぜなのでしょう。
さて、どうにか昼過ぎに到着してくれた小川さん。ライトやシート類など展示に必要な道具を用意してくれた太田さん(前述)とともに、会場の展示作業に入りました。倉庫スペースは天井まで吹き抜けになっており、太い梁がわたっています。中2階のようなスペースもあり、面白みのある構造に刺激を受けた様子の小川さんは、何かひらめいたようで、新しく絵も描き始めました。
夜までに展示環境は整いました。絵は、まだほとんど配置されていませんが、小川さんの頭の中にプランはできあがったようです。
原画展当日
開場直前(正確には開場後にも作業はずれこみつつ)、展示ができあがりました。倉庫スペースを縦横無尽に活かし、『300年』の宇宙が誕生!
1F:19歳の旅
2F:10年後の旅
★【レポート2】に続く。トークライブや似顔絵屋の様子もお伝えします。お楽しみに!
報告:石田光枝(キョートット出版メンバー)