新刊刊行&倉庫落成記念 『300年』原画展 @キョートット【レポート3】
小川てつオ『このようなやり方で300年の人生を生きていく[新版] あたいの沖縄旅日記』の刊行を記念して、原画展を開催しました(2023年5月20~22日、会場:キョートット出版)。
――レポート最終回は、似顔絵屋の様子を中心にお伝えします!
伝説の似顔絵屋、復活!
『300年』では、19歳だった小川てつオさんが似顔絵屋をしながら沖縄を旅し、さまざまな人たちと出会っていきます。それにちなみ会場では、小川さんによる似顔絵屋が復活しました。
それはまるで『300年』の物語の続きが、目の前で、フルカラーで、再び動き出したかのよう!!
似顔絵部屋へようこそ
「似顔絵屋は久しぶり」という小川さん。原画展横の和室を似顔絵部屋に決めると、自らしつらえを整えました。前日まで物にあふれた仕事部屋だったこの空間が、小川さんのアイデアで非日常の空間に変貌。ちょっと<占い部屋>のような雰囲気もあります。
面白いのは、原画展会場から似顔絵部屋に入る仕掛け。踏み台を使って原画展会場より障子窓から入る、というアイデアです。
動画:似顔絵部屋へようこそ!(12秒)
似顔絵には3つのコースを設けました。19歳の旅のときと同じく、写実コース・ファッショナブルコース・アバンギャルドコース。料金は1000円也。会場での一番人気はファッショナブルコースでした。
「ファッショナブル」の意味を小川さんに問うと、「ファッションデザイナーが描くデザイン画のような、ラフでおしゃれな感じ」とのこと。
ほう! そうですか!
私も最終日に似顔絵をお願いしました。
小川さんは客である私と雑談しながら、「ほう!」とか「そうですか!」などと軽やかに相づちをうっていきます。それが普段の小川さんとはちょっと違う感じ。「営業モード」のスイッチが入っているふうで、とても新鮮です。自分が描いてもらう体験にわくわくしながら、ふと、あることに気づきました。
私「そういえば『300年』には、似顔絵を描いてる最中の会話は、あまり出てきませんね?」
小川「19歳の時は一切しゃべらずに描いてたんです。そうやって真剣さを醸し出して、似顔絵が似てなくても文句を言わせない、という無言の圧力をかけてました」
そうだったのか! 目の前の反応には左右されず、超越した感じで似顔絵を描いていたのだろう、と私は思いこんでいました。19歳だった小川さんに、そんな身構えもあったとは!
できあがった似顔絵がこちら。
うわあ♪ これが自分という気はしないのですが、絵として心惹かれます。私は「お任せコース」を頼みました。写実・ファッショナブル・アバンギャルドをミックスしているところが「お任せ」と分析します。顔の両わきの赤い装飾(クッキングヒーターの空き箱利用)は、アバンギャルド入ってそう。
親しい友人に見せたところ「‥‥首は似てる」という感想でした(笑) ずっと大切にします!
※似顔絵について
似顔絵は会期中、部屋に飾って展示の一部とし、終了後、依頼主に郵送でお返ししました。
これとは別に、本をお買い上げの方にはハガキ大の用紙に似顔絵を描いてプレゼントという特典もあり、反響を呼びました。
長谷川書店の稔さん
長谷川書店の長谷川稔さんも足を運んでくださいました。長谷川書店は、大阪府三島郡島本町、阪急線の水無瀬駅前にあって、地域の方にこよなく愛される本屋さんです。その場でさっそくサイン本をご注文いただきました。
以前、長谷川書店を訪ねたとき、レジのところでお客さんが、必ずと言ってよいほど長谷川さんと話をしていく光景が印象的でした。「のんびり」を思い出させてくれる、「はせしょ」。そんな素敵な場所に本書が仲間入りしています! 近郊にお住まいの方、ぜひ「はせしょ」にお越しください。
原画展が終わって
こんなこともありました
原画展の展示プランは、すべて小川さんが構想しました。
初日、開場直前のことです。
小川「墨汁ありますか?」
私「え? あ、はい、ありますよ」
たまたまあった墨汁と筆を、どうぞ、と渡しました。何に使うのかな? と思いつつ、バタバタと仕事に追われ、気がついたらこんな風景が!
倉庫スペースは吹き抜けなので、2階の部屋の窓が見渡せます。カーテンに「300」!
特別な機材は何一つ使っていません。でも、キョートットの日常の空間はこうして変貌していき、本の中の『300年』の世界が解き放たれていきました。文章だけではない、小川さんの表現世界。それが目の前に現れるのを目撃できたことは、心の深いところを揺さぶられる体験でした。
ヤモリ発見
原画展終了翌日、撤去作業が始まる前、私はひとりで会場を観てまわりました。バタバタの3日間だったので、ゆっくり観るのは、実は初めて。天井が斜めに迫る中2階で、ゴロン、と寝転がってみました。
すると、驚きました。梁にヤモリがいたのです!
会期中は気づきませんでした。小川さんの遊び心が憎い!
そして、ヤモリはもう一匹いたのです。吹き抜け天井の、明かり取りの窓に。
ずっと、ここにいてほしかったなあ、ヤモリさんたち。
「家が喜んでる」
ご近所に住むアーティストのTさんは、帰り際こんな言葉を残しました。
「展覧会が終わったとき、きっと、すご~く寂しい気持ちになりますよ!」
個展や展覧会を何度も経験されているTさんの言葉だけに、「うわあ、きっとそうなるんだろうなあ」と、終わる前から覚悟はしていました。そして、予言は大当たり。著者の小川さんも、いつもの自分の場所へと帰り、私は孤島に取り残された気分です。
装丁・組版でこの本を一緒に作ってくださったデザイナーの納谷衣美さんは、こんな言葉をメールで伝えてくれました。
「人が来た後って、家が喜んでる余韻が残りますよね」
ああ、本当に、その通り。かけつけてくださった皆さんの「祝う気持ち」が、まだ、そこここに響いています。寂しさに埋もれそうになりながら、納谷さんの言葉に励まされました。それにしても、「家が喜んでる」って名言です。
物語は続く
考えてみれば、新版『300年』の旅は、今、始まったばかり。この本は、これからどんな人の手に渡り、その人の心に映っていくのでしょうか。著者の小川さんは「このようなやり方」を、どう展開させていくのでしょう。『300年』の世界に浸かった私は、19歳の主人公に感化され、「あたい」の一人称で暮らしています(家の中だけですが)。
物語は続いていきます。それぞれの場所で、これからも。
新版の表紙は沖縄の青い海と島々がモチーフになっています。会期中開催したお話会で、案内役の藤本なほ子さんは「星座のようにも見える」と語っていました。それを記憶していた小川さんから、こんな言葉がメールで届きました。
来場してくれた方々が輝き、あい照らしているようで、展覧会も一つの星座のようでした。
=レポート完=
追記
レポート1・2では、キョートット猫メンバー・ルキとノワの様子も写真でお伝えしました。でも実は、もう1名いるんです、猫メンバー。名前はジル(ルキとノワの子・キョートット生まれ)。
彼は人見知りで超慎重派。会期中、家のどこかにずっ~と潜伏して身を守っていました。夜だけそっと現れ、ごはんだけは食べていました。ある意味、誰よりも頑張ったジルさん、お疲れさま!!
報告:石田光枝(キョートット出版メンバー)